話数単位で選ぶ、2021年TVアニメ10選

年内間に合わず・・・

その年のアニメの総括「話数単位で選ぶ、TVアニメ10選」。ルールは以下の通り。

2021年1月1日~12月31日までに放送されたTVアニメ(再放送を除く)から選定。

・1作品につき上限1話。

・順位は付けない。

また個人的に設けたレギュレーションとして、『配信のみ・2022年以降にTV放送予定の配信作品』『モーションアクターを使ったバラエティ』『実写テレビドラマとアニメを組み合わせた作品』は含めないこととした。

集計は昨年に引き続きaninadoさん。当記事は2021年内更新が出来なかったため集計には含まれていないが、参考までに。

以下、リストアップ。順不同、一部敬称略で表記。


『SK∞ エスケーエイト』#02 PART「はじめてのサイコー!」

脚本/大河内一楼 絵コンテ/内海紘子 演出/蓮井隆弘 総作画監督/千葉道徳、菅野宏紀 作画監督/細川修平、大貫健一

初回のS(エス)の怪しげな雰囲気から一転、スケボーの魅力をランガとレキの友情の瑞々しさを交えながら描いていくエピソード。

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Sでは見事な滑りを魅せたランガだけど、スケボーの知識と技能は素人同然。スケボーが大好きなレキとの練習で同じものを見つめ、距離を縮めていく。練習場所での、学び舎での、レキの家で日常を切り取りながら描いていく青春ド真ん中のフィルムがとにかく眩しい。

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天才のレイアウト

「スノボと違ってスケボーはどこでも滑ることが出来る」「スケボーの可能性は無限なんだ」と語るレキ。これだけだとややスノーボードdisぽく映ってしまうところを「ランガは父を亡くしてからカナダでもスノボを滑らなくなった」という件を挟むことによって、ランガは「沖縄に引っ越してきたためにスケボーに切り替えたのではなく、自らの意志でスケボーを選んでいる」ということを提示するのが上手い。

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着地は上手くいかなかったけど、傷だらけでも、過去を飛び越えられる。スケボーは、仲間は、動き出すものをくれるのだ。

 

ワンダーエッグ・プライオリティ』第6回「パンチドランク・デー」

脚本/野島伸司 絵コンテ/篠原啓輔 演出/山本ゆうすけ 総作画監督/高橋沙妃 作画監督/山崎淳

アイの中で渦巻く答えの見えない複雑な感情を、食べ物をモチーフに示唆的に描いていくく演出が素晴らしい。

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沢木先生が家庭内に侵食してくることへの嫌悪。アイの想いを反射する卵の中に肉が放り込まれ、混ざりグチャグチャにグロテスクになる。

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フォークが突き立てられるウインナー。熱を入れられ調理され、皿に盛られ、血のようなケチャップがかけられたオムライス。食べ物を使って生々しさ、気味の悪さ*1を執拗に描写していく。

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オッカムの剃刀を切り込み、アイの中の複雑な感情を、アイ自身が気づいていなかった状況を可視化していく。「アイは先生が好き」だという一項が提示された時、こちらの思い込みもひっくり返され、殴られたような感覚があった。

 

『ミュークルドリーミー』第41話「バレンタイン和菓子配っちゃお!」

脚本/横谷昌宏 絵コンテ・演出/髙木啓明 総作画監督/松本文男 作画監督/小倉恭平、古澤貴文、岡辰也、福世孝明、松本文男 作画監督補佐/今井恵、橋本久美 ぬいぐるみ作画監督/古木舞

ポケットモンスター」や「名探偵コナン」等で活躍をみせる高木啓明と「ミュークル」きっての暴れ馬・横谷昌宏のタッグ回が面白くないわけがない。

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『ミュークル』高木啓明回はここぞという場面で気合の入った処理のカットが入ってきて、映像的なカタルシスが気持ち良い。『みっくす』でも単独のコンテ演出回が欲しいところだが、果たして。

バレンタインでチョコを貰えない男性陣というのは定番のネタだけれども、バレンタインごと無くしてしまおうという振り切った発想が楽しい。結局必要だったのはチョコではなく想いがこもった贈り物なんだよという話になるのだけれど、

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バレンタインを取り戻すために朝陽自身が女の子となってバレンタインの起源になるという、映像に負けない脚本の牽引力が凄まじい。そのための(?)田村睦心のキャスティングも見事。

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ミュークルドリーミーNo.1ヒロイン、朝陽くんちゃんを見逃すな!

 

のんのんびより のんすとっぷ』十一話「酔っぱらって思い出した」

脚本/吉田玲子 絵コンテ/澤井幸次 演出/小柴純弥 総作画監督/古川英樹 作画監督/池津寿恵、渡部桂太、石田誠也、若山政志、服部憲知、井本由紀、倉谷亮多、原口渉

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早春、芽生えの季節。季節は途絶えることなく流れて、みんなそれぞれの成長をする。れんげも後輩が出来てすっかり面倒を見る立場に。駄菓子屋が過去を振り返っていくお陰もあってシリーズ終盤の寂寥感が沁みる。

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川面真也監督の「間合い」の妙技はのんのんびよりをはじめとした他担当作品でも知られるところだけれど、今回はその極地。

酩酊し床についた駄菓子屋に布団を掛け直してあげるれんげ。そこから駄菓子屋が起きていたと判明する動きまでゆうに20秒以上。画面に動きは無いが涙を拭うまでの駄菓子屋の心情の巡りとれんげ達の成長の時間の流れ、まさに「のんすとっぷ」のアニメーション・・・。

 

『バクテン!!』第9話「甘えてよ!」

脚本/根元歳三 絵コンテ・演出/藤原佳幸 総作画監督/中西彩 作画監督/小園菜穂、藤原奈津子

美里良夜の抱く悩み、家庭環境にフォーカスをしたエピソード。

本作は「ずっとおうえん。プロジェクト 2011+10…」の一環として製作がされ、被災地であった仙台が舞台となっている。美里もこのエピソードで震災遺児であった事が明かされるが、その情報提示の仕方が巧みで、

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「物憂げに海を見つめる」「平屋の仮設住宅を映す」「高校卒業後は進学をせず働きに出る」等、言葉では多くを語らず、けれども美里の状況が確りと判る描写がなされていく。

そういった家庭環境が美里の性格を形成する要因にはなっているけど、今の美里のブランクに直接的に繋がっているというわけではない、という収め方が良い。作品全体のポリシーとして悲愴感を出す描写を極力作らないというのが一貫してあった。

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「それでも俺は、監督のバク転が大好きです」

「自分は誰も信じず独りで飛んで、チームと自分と壊してしまった」と語る志田だが、それでも彼のバク転は誰かのターニングポイントになっている。美里もその一人。『バクテン!!』の登場人物たちは常に前へ、空へと突き進んでいくんだ。

 

乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…X』第8話「お見合いしてしまった…」

脚本/笹野恵 絵コンテ・演出/戸澤俊太郎 総作画監督/大島美和 作画監督/服部憲知、松田萌、上田彩朔、木村拓馬、小幡公春、井本由紀、高橋美香、徳田夢之介

24分間にこれでもかとアイデアが詰め込まれた超野心的フィルムに心踊らされた。

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Aパート。この回は一味違うなと一発で感じさせる、平面的な構図のロングショットやニコルの心情を映し出すシャープなレイアウト。コンテ演出を担当した戸澤俊太郎の過去の参加作品「炎炎ノ消防隊」からの影響も感じさせるような。

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ひときわ目を引いた花を使ったモチーフ演出。Bパートのフレイとのお見合いのシーンでは華やかに画面を彩った。画面と劇伴のクライマックスに向けての導線の引き方が印象的。

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「諦めたくないから、諦めきれないから、やれるだけやってみようと思うんです」

フレイ(とラファエル)の言葉に気づきを得るニコル。風が吹き花弁が撒い、強い逆光が差す。このシーンピークを持っていくんだという意志を感じる、圧倒的な情景だった。

 

■『かげきしょうじょ!!』第八幕「薫の夏」

脚本/松本美弥子 絵コンテ/阿保孝雄 演出/江副仁美 総作画監督/福永智子 作画監督/三橋桜子

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圧倒的密度の青春恋愛ムービー。

原作でももちろん素晴らしいエピソードなのだけれども一応スピンオフという扱いだったため、丸々1話使って薫の過去を描いてくれたことに驚きと喜びがあった。

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メジャーリーガーの兄に囚われると感じている陸斗、自分は祖母や母と比べられることはないと言う薫。つり革によるフレーム内フレーム演出がふたりの意識の差を示唆する。

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祖母に言われた言葉に揺らぐ薫の心情、紅茶に反射する薫の瞳。打ち上がった花火に背を向け、海岸を走る浴衣姿の、普通のJKの姿の薫を洗い流すように波打つ海面。

同じ”揺らぎ”にも「迷い」と「決意」が現され、特に印象的なシーン。夢を叶えるため、高く険しい道を行くためには何かを捨てなければならない。


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ひとりセンターを歩く薫。孤高のスターへの道を彩る青い薔薇の花言葉は「夢は叶う」。

 

『トロピカル~ジュ!プリキュア』第29話「甦る伝説!プリキュアおめかしアップ!」

脚本/横谷昌宏 演出/田中裕太 作画監督/森佳祐

『トロプリ』は第33話「Viva!10本立てDEトロピカれ!」を筆頭に個性際立つエピソードが揃っているが、やはり飲み込まれるような画面力(ぢから)に圧倒されたこのエピソードを。

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変身・必殺技BANKの決めポーズをそのまま維持させて、BANKは毎回やっているという提示になっていたり、ラメールをカットインさせてそのままBG切り替え→必殺技BANKをやってみたり、BANKと本編の境界を取り去るような演出が面白い。

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今回初めて作画監督を務めた森佳祐の柔らかい絵柄、豪華アニメーター陣が魅せる立体的なアクション作画に釘付けにさせられる*2。水に超ゼッタイヤラネーダを入れることによって、水が様々な形に変化しバトルのバリエーションを加えているのが楽しい。

しかしトロプリ敵幹部たち、ほのぼのしている割にかなり戦法戦術に長けていて感心させられる・・・。

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くるるん、かわいいよくるるん・・・。

 

■『小林さんちのメイドラゴンS』第10話「カンナの夏休み(二か国語放送です!?)」

脚本/西川昌志 絵コンテ・演出/小川太一 総作画監督/丸木宣明 作画監督/引山佳代、熊野誠也

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Aパート、ニューヨークまでひとっ飛びして家出をするスケールの大きさと非日常感。家出少女同士のカンナとクロエ、冒険のような1日を通して帰る場所があることの大切さが描かれる。

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夕景のフィルタがすごく良い

一転、Bパートでは小林とカンナのなんてことない日常が描かれる。宿題をしてそうめんを食べ、外に出て自由研究をして喫茶店で涼む。なぜここがカンナにとって「帰る場所」なのかという理由を、緻密な生活芝居で徹底的に、実在性と説得力をもって描いてくれる。

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ファンタジックなAパートと日常的なBパート、対照的なエピソードを一つのテーマを通して描く構成力・画面力、京都アニメーションここにあり。

 

『Sonny boy』第11話「少年と海」

脚本/夏目真悟 絵コンテ・作画監督/久貝典史 演出/大野仁愛

冒頭の疑似的なOP、少年たちは葬式のようなものを作る。葬式の雰囲気にはとても似つかわしくない明るい挿入歌が流れ、静止した世界の「死」と向き合い、前に進んでいくために。その姿にやけに感激してしまった。

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「死」について語るラジダニ。この世界での「死」は肉体的なものに限らず、アイデンティティの喪失でもあるという。

長い漂流で成長し晴れやかな気分を感じさせるビビットな青色が、旅立ち・別れの悲しさを感じさせなかった。全編を通して空と海が映る時間が長かったけれどひときわ澄んで青く見える。

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ラジダニは2000年の旅路を経験した後でも、長良たちを友達と言ってくれるのがなんとなく嬉しかったよね。

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長良がラジダニに差し出した猿の毛玉。自分を見失わないための、モンキーベースボールの審判の能力遺物が、死に誘惑されたラジダニの手元に戻る。それは旅立つ長良にそれはもう必要ない。

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ラストカット。いつも俯きがちだった長良が希のコンパスが指す上を向く。カット尻を切ってエンドロールに繋げていくのが、旅立ちの始まりを感じさせて印象的だった。

 


以上

また、他に候補として挙げていたエピソードとして

ウマ娘 プリティーダービー Season 2』第2話「譲れないから!」

『装甲娘戦機』#10「この世界のために?」

『オッドタクシー』#4「田中革命」

『SSSS.DYNAZENON』第10話「思い残した記憶って、なに?」

『スライム倒して300年、知らないうちにレベルMAXになってました』第10話「吟遊詩人が来た」

■『ゾンビランドサガ リベンジ』第11話「たとえば君がいるだけで SAGA」

不滅のあなたへ』#12「目覚め」

■『ラブライブ!スーパースター!!』第3話「クーカ―」

『やくならマグカップも 二番窯』第11話「自由・未来・きらめき」

 

他にも『NOMAD メガロボクス2』『恋と呼ぶには気持ち悪い』『アイドリッシュセブン Third BEAT!』『チート薬師のスローライフ異世界に作ろうドラッグストア〜』『RE-MAIN』からも候補があったがアベレージの高さゆえ選びきれず。

またアイカツプラネット!』第19話「君がいるだけで」も候補に挙げていたが実写ドラマパートの評価のパーセンテージが大きかったため選外に。しかし間違いなく2021年ベストエピソードの一つ。


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2021年は劇場アニメに多く手を出せた。『劇場版少女歌劇レヴュースタァライト*3』をはじめとした数々のアニメ映画で「劇場でしか味わえない感覚・劇場で観る意義」を学ぶことができた1年だった。

反対に「TVアニメをリアルタイムで追いかけていくことでしか味わえない感覚」も勿論あって、まだまだTVアニメの可能性を信じていこうと思える1年でもあった。

 

2022年も頑張ってアニメ観るよ~

 

*1:黄身にかけているわけではないよ、決して

*2:渡邊巧大改めはなぶし名義での参加はひとつ大きなサプライズ

*3:公開してから約半年間、ロングランのお陰もあってかレヴュースタァライトのことを考えない日は無かったと言えるくらいの日々だった